Latest Entries

果たしてバットマンは結婚できるのか問題

 先日、「バットマン」誌の最新の24号を読もうとするその直前に、英語でアメコミ関連のサイトを見ていたら、「バットマン、遂に結婚!」などと書かれており、寝耳に水だった私としては「はあ~っ!?」とひっくりかえる、ということがありました。
 ……まあ、その後実際に24号を読んでみたら、そこで展開されているのは、バットマンがキャットウーマンに求婚した、というまでのところであり……なおかつ、これまでの「バットマン」誌の展開をきちんと追ってきた読者からしてみれば、実はそれはめでたいことでもなんでもないことだったんですな。
こういうのも今に始まったことではありませんが……それにしても、バットマンのキャットウーマンへの求婚が'finally'って、なんでこんな単語が出てくるんだ……。24号に至るまでの「バットマン」誌でブルースとセリーナの関係が徐々に親密さを増すような展開が丹念に描かれてきたら'finally'って表現も正しいのだろうけれども、実際にはそんなことは全くない(……それにしても、'finally'という単語を聞いてまっさきに思い出すのがロック様のマイクアピールである私のような者が、こういうダメ出しをするのもどうかとは思うのですが……)。
 もちろん「バットマン」誌でブルースとセリーナの関係が描かれることはあったけれども、それはむしろ、両者のこれまでの微妙な関係がそのまま引き継がれてきているようなものであったわけです。
 そして、それより以前の問題として、そもそも私が驚いたのは、よりによってトム・キングのライティングで「バットマンが結婚する」などという展開は絶対にありえないことだと思えたからです。私としては、バットマンとはいかなる存在なのか、その本質はなんなのかということを長年に渡ってず~っと考え続けてきた結果、様々な時代に様々な形態を取ったバットマンというキャラクターの定義ともいえるものに、一応の結論としてたどり着いた、ということがあります。で、なぜそう言えるのかはものすご~く長くなるからここでは書きませんが、「バットマンが結婚することは決してない」「バットマンは幸福な家庭生活から遁走し続ける」という結論が導かれてくるのです。
 そして、私が結論として到達したバットマンの定義からすると、これまでのところ、一分の隙もなくキャラクター解釈が完全に一致しているという唯一無二のライターが現行の「バットマン」誌を担当するトム・キングであるのです。
 もちろん、そんなトム・キングが本当にバットマンを結婚させようとしているのならば、単に私が根本的に勘違いしていたというだけのことなのですが……少なくとも、「バットマンの求婚」という出来事は、これまでの「バットマン」誌の展開からすると、平穏で幸福な家庭生活にたどり着くことが見越されるような形で出てきたことではありません。では、なぜ、このような出来事が起きたのか。……実はこれは、明確に、『バットマン/フラッシュ:ザ・ボタン』の余波として起きたことなのです。


 「バットマン」誌と「フラッシュ」誌の双方の21号と22号にまたがる形で連載されたクロスオーヴァー『バットマン/フラッシュ:ザ・ボタン』では、『DCユニヴァース:リバース』の続きが語られています。
 バットマンとフラッシュがその真相を求める謎のボタン(……このボタンがどんなボタンなのかは、『DCユニヴァース・リバース』の邦訳がもうすぐ出るということは、書かない方がいいんすかね……)、これを追い、二人は時空を超えた旅に出ます。
 その渦中で二人が遭遇したのは、『フラッシュポイント』の世界で強盗に射殺されたブルースに変わってバットマンとなった、トマス・ウェインであるのでした。実は、ブルースがトマスと遭遇するということ自体が、『DCユニヴァース:リバース』および『ボタン』の真の黒幕がブルースを精神的に弱らせるために仕組んだことであるらしいのですが、もちろん、この遭遇自体は、「バットマン」誌の展開の方にも大きな影響を及ぼすことになります。
 というのも、ブルースとの別れ際に、トマスは次のように言ったからです。


  You're the greatest gift this life has ever given me. And there is more I should have shared in that letter, so listen to me...
  お前は、この人生が私に与えてくれた最も素晴らしい贈り物だ。そして、私にはあの手紙に加えておくべきだったことがある、だから聞いてくれ……



  Don't be Batman.
  バットマンになるな。



  Find happiness. Please. You don't have to do this. Don't do it for me. Don't do it for your mother.
  幸福を見つけろ。頼む。おまえはこんなことをする必要はない。私のためにこんなことをするな。母さんのためにもこんなことをするな。



  Be a father for your son in a way I never could be for you.
  お前の息子のために父親になれ、私がお前にはしてやれなかったような。



  Let the Batman die with me.
  バットマンは、私とともに死なせるのだ。



 トマスの願いは、バットマンという存在を自らとともに葬り、ブルースをそこから解放することにある……。実は、『ボタン』の終盤、一通り事件が終結した後でゴッサムに戻ったブルースは、夜空に灯るバットシグナルを見てもそれに合わせて出動するのをためらう姿が描かれていました。
 また、問題の24号においても、自分の生活を好きでいられるのかをゴッサム・ガールに尋ねられるてこんな風に答えています。


  I'm not Batman because I like being Batman.
  私がバットマンであるのは、バットマンであることが好きだからではない。


  I'm Batman because I'm Batman.
  私がバットマンであるのは、私がバットマンだからだ。



 ……しかし、すぐさま、こんな風に問い返されてしまうのです。


  What about your family? Before Alfred. Your parents.
  あなたの家族はどうなの? アルフレッド以前。ご両親のことよ。



  Would they have wanted you to be this?
  ご両親なら、あなたがこうなることを望んだかしら?



  To be Batman?
  バットマンになることを?



 ……と、いうような展開を経た上で、「ブルースのセリーナへの求婚」という出来事が発生するわけです。……だからね、やっぱり……全然めでたくなんかないじゃーん!


 改めて確認しますが、今回、ブルースがセリーナが求婚するに至った次第は以上のようなことであるため、かつてクラークがロイスに求婚するに至ったときのこととはまるで意味が異なります。ブルースがセリーナとの関係を徐々に親密なものにして幸福へと向かう道のりを歩んでいるのでは全くなく、かつてないほどにメンタル面が弱っている状況で、バットマンであることの宿命から逃れるために出てきたのが、セリーナに結婚を求める言葉だったのです。
 そして、今回の件でさらに巧妙なのは、ブルースとセリーナの間には決定的に乗り越えがたい断層があることが、既に示されていることです。実はそれは、『ボタン』の以前から伏線としてしこまれていたことなんですが……ここでそれをもってくるのか~! といいますかね。
 現行のブルースとセリーナは、自分たちが最初に出会った出来事について、異なる記憶を持っています。ブルースの記憶がオリジナルの両者の遭遇であるのに対して、セリーナの方は、ポストクライシスのバットマンのオリジンたる『イヤーワン』の記憶なんですな。
 そのため、ブルースが最初の事件にまつわる宝石を婚約指輪として出してきても、セリーナ的には「何ソレ?」という、割とヒドいすれ違いが起きてしまっているのです。そして、この求婚にまつわる出来事が『ボタン』と強く結びついて語られてもいる以上、ブルースとセリーナの間に存在する深い断層は「リバース」全体の核心部分と結びついていることは、ほぼ確定でしう。
 ……っちゅーわけなので、「バットマン」誌をちゃんと継続して読んでいる読者には、これはめでたいことでもなんでもないし、そもそもこの求婚が受け入れられるかどうかすらわからないということは明白なんですが……
 いずれにせよはっきりしているのは、少なくともバットマンが今までと同じ存在である限りは、結婚などできるはずもないということです。特にトム・キングのライティングによる最初のアークでは、無実の人間を救うためならば、日々果てしなく続く闘いの渦中でいつでもバットマンは自らの命を捨てる覚悟ができているということだったのですから、特権的な一人の配偶者を持つことなどできるはずもありません。
 言い換えれば、「果たしてバットマンは結婚することができるのか」ということは、単純なように見えながら、バットマンというキャラクターの根幹に関わる問題であるわけです。そういう意味では、少なくとも、「ブルースとセリーナの間にあるdcユニヴァースそのものの亀裂が解消される」「バットマンが、明確にこれまでとは異なる存在になる」という二点がクリアされないとこの結婚はありえないはずなので、成就するのだとしても『ドゥームズデイ・クロック』のあとになるんではないでしょうか。


 ……最近の「バットマン」誌の展開を読みながら、以上のようなことを考えていたのですが……それを踏まえて改めて『ボタン』を読み返してみると、非常に周到に仕込まれた伏線が至るところにあるのがわかってきたのです。
 特に、最初に読んだ段階では何が起きているのか全くわかっていなかったことに気づいてしまったのが、『ボタン』のエピローグです。これを読むと、バットマンのみならずスーパーマンにも、同じようにそのキャラクターの本質を根幹から揺るがすようなことがふりかかるっぽいことが予告されていることがわかるんですが、それだけではなく……実は、最後に引用されている言葉を読むと、これら全ては「スーパーマンとバットマンを滅ぼすための用意周到な陰謀」ではないんじゃないかと。つまり、スーパーマンとバットマンを根本的な部分から破滅させることが、むしろ、両者にその本質を再生させるための試練として用意されているのではないか。『DCユニヴァース:リバース』を読んで以来、私を含め多くの読者は、ジェフ・ジョンズがあの人に喧嘩を売ったものとばかり思ってきたけれども、実は違ったのではなかろうか。むしろ、あの人の存在とその影響こそが、王道ヒーローが王道ヒーローとして存在しうるための試練であるということなんじゃないかと。確かにその影響は「毒」と言えるのかもしれないが、しかし、その「毒」によって「目を見開かされる」こともあるという……(だいたい、よくよく考えてみたら、スーパーマンを支持する者は、あの人を単純に否定することは絶対にできないわけで……)。
 「リバース」全体の真の黒幕であるだろうあのキャラクターが、単に世界の破滅をもくろむ巨悪であるかのように描かれてしまうことに違和感を感じてはいたのですが、しかし、それはこちらの読解が甘かっただけなのではないか、と。あのキャラクターは単なる悪などではなく、スーパーマンとバットマンの破滅を望んでいるのでもなく……スーパーマンとバットマンという、アメコミヒーローの原型とすら言える二人が、その本質を根幹から揺るがされたときにそれでもなお立ち直りうるのか、その真の強さはどの程度のものであるのかを明らかにすることができるような状況を生み出してはいるが、その目的は、ただ単に、両者の本質を観察することにのみあるのではないか……(まあ、黒幕と言っても一人ではなさそうなので、「観察のみが目的の黒幕」と「世界に干渉して変革することが目的の黒幕」の両方がいるんでしょうけれども)。
 つまり、あの人のあの作品は、実は、「リバース」によって否定されているのではない。むしろここにあるのは、むしろ、あの作品とその影響までをも含み込んだものがDCコミックスの歴史なのであるという、DCユニヴァースの全体像に関する真の全肯定なのではなかろうか。
 改めて振り返ってみれば、DCコミックスがたどってきた姿の中でも対局にある二つの側面、その光と闇の両方を内包しつつグリーンランタンの再生に成功したのがジェフ・ジョンズの出世作『グリーンランタン:リバース』であったのだから、それと同じことをDCユニヴァース全体において展開するのであれば、そのように考えた方が筋が通るわけです。
 そう考えると……ジェフ・ジョンズ自身が、『ボタン』からさらに続く『ドゥームズデイ・クロック』において「ドゥームズデイ」という言葉が用いられていることについて、ドゥームズデイという名のあのキャラクター自体が登場するわけではないが、意味の含みはあると述べていたのは、「この作品で展開されるのは、スーパーマンの死(とおそらくはその再生)である」ということなのではないかと。
 そういう意味では、「バットマンの本質をいったん解体して改めて根本から問い直す」という仕事を任せることのできる存在としてトム・キングは選ばれたということなんでしょうが……逆に言うと、ジェフ的には、「スーパーマンに関してはおれ自身がやるぜ~!」ということなんじゃないでしょうか……。
 う~む……いや、ほんと、これはちょっと凄いことになりそうであります。一度はその根幹から完全に抹殺したキャラクターであるグリーンランタンを完全復活させるという荒業を成し遂げたのが『グリーンランタン:リバース』であったわけですから、それをDCユニヴァース全体の規模にまで拡大してやるというのは偉いことなんですが……そこまでやってこそ、「リバース」と言えるということなんでしょうか。








関連記事


コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://howardhoax.blog.fc2.com/tb.php/235-3ea768ab

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | ホーム |  »

このブログについて

 ・毎月第1・第3土曜日に更新しています。それ以外にも不定期に更新していますので、月に2~3回程度の頻度で新しい記事を載せています。


 ・コメント欄は承認制です。管理者の直接の知人でもないのにタメ口で書き込まれたようなコメントは承認しませんのであしからず。


 ・なにか連絡事項のある方は、howardhoax(アットマーク)yahoo.co.jpまでどうぞ。

 

プロフィール

Howard Hoax

Author:Howard Hoax
 読んだ本、見た映画の感想をつづるブログ。基本的にネタバレありです。

 

全記事表示リンク

広告

 

最新コメント

カテゴリ

月別アーカイブ

広告

 

検索フォーム

 

 

RSSリンクの表示

リンク

QRコード

 

QR