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『フラッシュ:ローグズ・リローディド』に作り手の成長を見る

 2016年の新展開「リバース」によって、歴史的に積み上げられてきた従来の価値観を大幅に復活させたのが最近のDCコミックスの動向なのであり、結果として、我らがグリーンアローのヒゲもまた、見事復活を果たしたのでした。私もなんだかんだで15誌ほどの購読を継続していますが、総じてどれもライティングの質が高く、飽きずに読み続けることができています。
 そんな中でも、「フラッシュ」誌におけるジョシュア・ウィリアムスンのライティングには、刮目すべきところがあります。DCコミックスの長年に渡る遺産と現在のストーリーとを結合するという基本路線が、最もうまくいっているタイトルの一つであるように思われるからです。
 もともと、2011年以降の「New 52」において、最も悪影響を被ってしまったのが「フラッシュ」誌だったと私は考えています。フラッシュに関連するキャラクターは全員がファミリーとしてつながっているので、人間関係をいったん全部リセットして完全な新展開を図る意味がほぼないのですな。……結果として、従来からの読者としての視点で言わせてもらいますと、2011年から2016年までの「フラッシュ」誌は、全部読んでますが、ただの一回も面白くありませんでした……。
 とはいえ、まさにそのような、五年間をなんとか堪え忍んで、つまんないつまんないつまんない……ウォリーは? ウォリーは? ウォリーは? あとジェイは? などと言い続けてきたフラッシュファンこそが『DCユニヴァース:リバース』を最も楽しめたというのも事実なのであり、ジェフありがとう! と言うしかないのであります。
 ジェフ・ジョンズと言えば、その『DCユニヴァース:リバース』を最後にいったんコミック製作の現場から撤退してしまいましたが、その直前くらいの仕事に接していると、キャプテン・コールドの描写がもはや神業の域に達しているとしか思えなかったのです。
 たとえば、ジャスティスリーグの面々が乱心して人類の脅威となり、それを止めるのがルーサーとコールドさん……などという事件が起きた際、いざ事件が終結してみると、コールドさんがフラッシュをカチカチの氷漬けに。……そしてそこには、「へ、こんなこたーいつだってできるぜ」などとうそぶきつつも、ちゃっかりスマートフォンで記念撮影しているコールドさんの姿がありました。
 ジェフ・ジョンズのライティングによる「ジャスティスリーグ」で以上のような事件があった際、翌月の「フラッシュ」をわくわくしながら手に取ったものの、そこにあってしかるべき描写がないことに、私は心底がっかりしました。……だってですよ、「ジャスティスリーグ」でコールドさんとフラッシュのそんな場面があった以上、「フラッシュ」では、


  アジトでだらだらだべってるローグズのみなさん
   → そこにコールドさんから届いた、フラッシュ氷漬けの写メ
   → 「ヒャッハー!」


 ……という描写は、絶対にいるだろ!
 そういえばコールドさん関連で思い出しましたが、あの人、一時期、ジャスティスリーグのメンバーになってたんですよね……。しかし、「ジャスティスリーグ」で回想エピソードが絡んだりして時系列が曖昧なままの状態で、「リバース」で展開はそれまでの展開はいったんキャンセル。結果として、そもそもキャプテン・コールドが正確にはいつ加入していつ脱退したのか、うやむやになってる気がするんですが……。たしか、リーグ加入してた時期に、ミラーマスターと密談して「安心しろ、今の立場を利用して一世一代の大仕事を企んでるぜ」的なことを言ってたような……。う~ん、これはやっぱりアレですかねえ。バットマンに一瞬でバレて、シバかれたんですかねえ……。


 まあいずれにせよ、New 52時代の「フラッシュ」誌に欠けていたのが、歴史的蓄積に対する畏怖であったことだけは間違いないのです。だってですよ、「直近二十年ぶんのライターはマーク・ウェイドとジェフ・ジョンズのどちらかが担当がほとんど、それ以外の長期担当者は皆無」「伝説のキャラクターであるバリー・アレンが二十年以上ぶりに復活して間もない」「遂にスタートしたドラマ版「フラッシュ」は、フラッシュへの愛とオマージュが毎回炸裂しまくった上に、異常にハイクオリティ」「ドラマ版プロデューサーであり死ぬほど忙しいはずのジェフ・ジョンズは、(とりあえず第1シーズンの時点では)キャプテン・コールド登場回になると必ず自ら脚本を書き始めるという、いつもの感じを発揮」……などという状況が周囲を取り巻いているのに、歴史的蓄積に無頓着なままに単にフツーのオリジナルのストーリーを各ライターが展開していくのは、正直なところ理解に苦しむことでしかありませんでした。
 そして、結局、そんな「フラッシュ」誌の状況に終止符を打ったのは、「リバース」にともなう新シリーズ開始の時点での、ジョシュア・ウィリアムスンのライター就任であるのでした。







 『フラッシュ:ローグズ・リローディド』


  ライター:ジョシュア・ウィリアムスン
  アーティスト:カーマイン・ディ・ジャンドメニコ


 ……そんなわけで、「リバース」以降の現行シリーズの「フラッシュ」誌を創刊号から現在に至るまでライティングしているのがジョシュア・ウィリアムスンであるわけですが、14号から17号にかけて展開された『ローグズ・リローディド』は、この人のキャリアの中でも画期的なブレイクスルーを達成したように思える、会心の出来となっているのでした。
 私が現行シリーズを読み始めてすぐに感じたことは、とにかく、コミックのそこかしこにフラッシュというキャラクターへの愛着が散りばめられていることでした。個々のキャラクターがどのような状況に置かれているのかを理解し、何を考えどのように行動するのかを細かく検討した上で、相互の人間関係を丹念に描き出す……つまり、キャラクター描写を最優先するということに、ジョシュア・ウィリアムスンのライティングの大きな特徴があるわけです。
 そういう意味では、人間関係の丁寧な描写が優先される結果、ストーリーの進行はどうしてもゆるやかになり、刺激的でけれん味に満ちた展開がサクサク進むわけではない……というような評価だったのですが、この『ローグズ・リローディド』に至って、「フラッシュ」への愛に満ちたきめ細やかなキャラクター造形を保持した上で、なおかつ怒濤の展開を見せるストーリーテリングを実現するということが、かなり高度な水準で達成されていたのです。


 『ローグズ・リローディド』で描かれる事件の発端となるのは、「リバース」以降にセントラル・シティから姿を消していたローグズの帰還です。……もともと、ローグズの失踪を不審に思っていたフラッシュが、執拗な調査の結果、ローグズの秘密アジトを発見し、そこで、入念に構築された大がかりな犯罪計画を察知することになります。侵入者を排除するため自動的に爆破されたアジトを脱出したフラッシュは、ローグズの追跡を開始します……しかし、その計画を察知させることこそが、キャプテン・コールドの立てた策であるのでした。
 セントラル・シティから離れたコルト・マルティーズの美術館へのローグズの襲撃を事前に察知していたフラッシュは、ローグズを止めることに成功……したかに見えたものの、実はそこにいたのはローグズではなく、ミラーマスターが一人でローグズ全員の幻影を作り上げていたのにすぎないのでした。


  Well, you figured it out a few minutes faster than we expected.
  どうやらお前は、おれたちの予想より何分か早く理解したようだな。



  But every. Second. Counted.
  だが、全ての。秒が。計算済みだ。



 フラッシュに架空の犯罪を察知させ、そちらの追跡へと誘導する入念な囮計画を遂行した結果として、ローグズが獲得したのは、地上最速の男たるフラッシュに対する、一時間の優位。その猶予を得たローグズは、フラッシュの目が離れたセントラル・シティにおいて、それぞれが同時に、それぞれの能力を駆使し、異なる場所を一斉に襲うことを開始したのでした……。


 ……さて、そんなストーリーが語られることになるこの『ローグズ・リローディド』の面白さは、これまでひたすら何度も何度も何度も何度も語られてきたフラッシュとローグズとの闘いがこれまでどんなものであったのかを全てふまえ、また、両者の能力や性格やその結果として選ばれる先方なども全てふまえた上で、ローグズが本気でフラッシュを出し抜くためにはどのようにするのであろうかということを、徹底して構築していると言うことにあります。
 うんざりするほど何度もフラッシュに敗北してきたローグズが、単に正面からフラッシュに挑戦するはずはありません。その結果を踏まえたキャプテン・コールドが選択するのは、莫大な労力を割き、秒単位での計画を考え抜いた上で、やっとのことでようやく獲得できる、たかだか「一時間の時間的優位」を、最大限度までに有効活用することです。
 一方、フラッシュの側がローグズの罠をくぐり抜け計画の阻止に近づいていくことができるのは、ローグズの個々のメンバーの細かい性格すら把握しているからであることが、克明に描かれていきます。……そして、その結果として訪れる、フラッシュとキャプテン・コールドとの間で決着をつけることになるのが、相手の性格を最後の最後で読み違えてしまったことである――そしてまた、ここでは、『DCユニヴァース:リバース』の、とある場面とのつながりもある――ということも含めて、大変周到に構築されているストーリーなのでありました。
 『ローグズ・リローディド』を読んで改めて痛感したことは、ジョシュア・ウィリアムスンのようなライターがこのようなストーリーを語ることができたのは、まずそもそもの大前提として、個々のキャラクターへの愛着をこそ、絶対に譲ることのできない大前提として保持していたからだ、ということです。
 つまり、それぞれのキャラクターがどのような存在であるのかをその根幹に至るまで理解しようと努め、どのような状況でどのように行動するのかを詳細に把握し、立体的なキャラクター造形を獲得する……まずそれができたならば、そのキャラクター解釈を前提とした上で、人物関係を交錯させ複雑に入り組んだプロットを構築することなど、後からいくらでも可能になるのだ、ということです。
 言い換えれば、キャラクターへの愛着と、複雑なプロットの高度な技法とは、特に矛盾するものでもない。しかし、まずキャラクター解釈を基盤として固めてからプロット構築の洗練に向かうことはできても、その逆の方向性はありえないのではないでしょうか。……それこそ、ストーリー展開の複雑化・辻褄合わせだけを優先すると、映画の方の『シヴィル・ウォー』のようなシロモノができ上がることになるのだと思われます。
 まず愛着が先にあれば、ストーリーテリングの技術など後からいくらでも成長させていけるということを、「フラッシュ」誌においてジョシュア・ウィリアムスンは現在進行形で実証してくれているように思えるのです。


 そんな感じで、近年のライターとしての成長著しいジョシュア・ウィリアムスンですが、どうも既に、DC内部的にはジェフ・ジョンズの後継者と目されてるっぽいですね。先日はクロスオーヴァー『ジャスティスリーグvsスーサイド・スクワド』のライティングを担当していましたが、まあこれに関しては、多くのキャラクターを裁かなければいけない大規模のクロスオーヴァーとしては、まあ可もなく不可もなしといったところかなと(とはいえ、自分以外は全員ヴィランの寄せ集めチームで狂的に立ち向かわなければいけない状況で、「このチームはジャスティスリーグだ!」と言い張ってみるバットマンは相変わらず最高だと思いました)。
 ジェフ・ジョンズをして、「彼は、いつの日か偉大なライターになる男だ……」と言わしめたジョシュア・ウィリアムスンの今後の動向を、しっかりと見ていきたいと思っております。








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