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デニス・オニール期のアイアンマン

 今週は忙しくてどうしても新しい記事を書く時間が取れなかったため、以前に書いてからストックしておいた文章をアップします。そのため、アメコミ関連のエントリが連続してしまうことになりますがご了承ください。


 少し前のことなんですが、デニス・オニールがライティングを担当していた時期の「アイアンマン」をまとめて読んでおりました。第一シリーズの中でも、158号及び160~208号と結構な長期間に渡るものなのですが、アンソロジーなんかに再録されたものをちょこちょこ読んだだけであったのでした。
 なぜデニス・オニール期の「アイアンマン」を読んでいなかったのかというと、そこには明確な理由があります。「どうせそれって『デーモン・イン・ア・ボトル』の二番煎じでしょ?」という先入観があったからです。……もともと、トニー・スタークがアル中になってからの苦悩が描かれたのは、デヴィッド・ミッチェリーニのライティングによる『デーモン・イン・ア・ボトル』。デニス・オニールが担当している時期にはトニーのアル中が再発した上でアイアンマンの役割はローディが交代したこと自体は知っていたので、まあ、既に有名な展開の焼き直しなんだろうな~、と。さらには、デニス・オニールのキャリアで見ても、『グリーンランタン/グリーンアロー』で既に描かれていたヤク中の描写の焼き直しであろう、と。つまり、「アイアンマン」誌にとってとデニス・オニールにとってとの二重の焼き直しじゃねえか! とばかり思っており、食指が全く伸びなかったんですね。
 ところが、あにはからんや、いざデニス・オニールが担当していた時期の「アイアンマン」をまとめて読んでみると、これが非常に面白かったのであります。


 商売敵であるオブディア・ステインにあの手この手で追いつめられて心がポッキリ折れちゃったトニーが再びアルコールに手を出してしまうのが、167号のことです。その後の展開を大ざっぱに整理すると、おおよそ次のような感じになります。


 アイアンマンの役割を放棄したトニー、「そのアーマーさえ身につけてりゃ誰だってアイアンマンだ」「私はもっとリラックスしたい、人生をエンジョイしたい」とか言い始め、装備一式をローディにぶん投げる


 → ステイン、スターク・インターナショナルを買収にかかる。トニー本人が対処しなければどうしようもない事態になるも、トニーは行方をくらまして酒浸りの生活をしているためどうにもならず。スターク・インターナショナルは買収されてステイン・インターナショナルへ社名変更


 → ステイン・インターナショナルを辞めたローディ、アイアンマンとしてボディガードのバイトをしてなんとか暮らす。装備が故障してもトニーは行方不明のために修理できる人もおらず、というかそもそもアーマーの使い方自体よくわからないまま無理矢理活動しており、涙ぐましい苦闘を続ける


 → ローディ、協力者であるアーウィン姉弟とともに西海岸に移住し、バイトしてコツコツ貯めた金で小規模なヴェンチャー企業を立ち上げることに。「アル中は直ったよ!」とか言うトニーが合流(ステインに資産凍結されていたために、金は出さず)


 → ローディ、原因不明の頭痛に悩まされるように。「しまった! アイアンマンのアーマーはあくまで自分用のもので、ローディ用の調整なんていっさいしてなかったから、脳波が合わなかったかも!」などと突然言い出すトニー(後に、ローディの頭痛の原因は別にあったことが明らかになるものの、どっちにしろ酷い話だ……)


 → 頭痛に苦しみ錯乱気味のローディ、いつの間にか悪者扱いされるようなポジションへ。トニー復活待望論的な空気が漂い始める(ただしトニーは、「私はもうアイアンマンは辞めたんだ、今はアイアンマンとはローディのことだ」などとぐちぐち言い続け、ちょいちょい予備のアーマーを装着してるくせに正式な復帰は拒否し続ける)


 → トニーとローディが内紛ぎみの情勢の中、ステインが潰しにかかってくる。遂には爆弾を送りつけられ、ローディは怪我のみで一命を取り留めるものの、アーウィン弟が爆死する


 → 遂に決起したトニー、新たなシルヴァーセンチュリオンアーマーを装着して出動すると、アイアンモンガーを駆るステインと最終決着戦へ


 ……と、おおよそ以上のような展開になっているのでした。
 で、これの何が面白いのかというと、「トニーのクズっぷりの執拗な描写が本当に凄い」ということにあるんですね。……よくよく考えてみれば、『デーモン・イン・ア・ボトル』はアル中になったトニーがいかにしてそれを克服していくかというストーリーであったので、一連の展開の中でトニーの復活までが描かれるわけです。一方、『グリーンランタン/グリーンアロー』のヤク中描写なんかにしても、主人公の側のハルとオリーはそういう人々を見て回るだけなのであって、彼らの方が堕落しているというわけではありません。
 それが、この時期の「アイアンマン」になると、トニーはローディに一方的にアーマーを押しつけて行方をくらまし、アイアンマンとしての役割はローディが引き継ぐことになるので、トニー自身はただひたすらに飲み歩くだけ。それも、最初の内は豪華なパーティとかして遊び呆けていたのが、部下に呼び出されたりするのがいやで行方をくらまし、その間に会社は買収され、資産は凍結され、手持ちの金も尽きた結果として、ニューヨークの路地裏をホームレスとしてうろつきつつひたすら酒に浸るだけの生活へ。この急激な転落ぶりが半端ないわけです。
 トニーを捜索して訪れてきたキャップが、へべれけでまともに話も通じないのでとりあえず正気に戻そうとしてビンタするも、「ぶ、ぶつの……? アーマーなしの僕だったらアナタの相手にならないのなんてわかってるでしょ……?」とか視線の焦点も定まらずに卑屈に言い出すトニー。「ダメだこりゃ」と匙を投げたキャップに見捨てられるトニー。ニューヨークの路上で、警らの警官に「四六時中酔っぱらってるアル中かよ」とか呆れられると、「酔ってるわけじゃないやい! 今は神経衰弱なだけだい!」などとなぜかムキになるトニー。じゃあということで、日付が変わる深夜零時にシラフだったら五十ドルやるとかいう賭けをもちかけられるトニー。五十ドルという大金目当てにがんばって酒抜きするトニー。約束の時間にシラフで現れたトニーを目にして、「五十ドルくらい、喜んでやるよ……おれの親父はアル中で死んだんだ……」などと泣き出す警官。神妙なトニー。……でも翌号になると、その金でまた飲んでるトニー。
 ……いや、もう、クズの中のクズですよ! しかも、どこまでも墜ちていくトニーの描写と交互に、新米ヒーローとして苦労しつつもひたすら真面目に活動するローディの姿も描かれていくので、トニーのクズっぷりが否応なしに際だつことになります。
 これは要するにですね、『デーモン・イン・ア・ボトル』の場合だと「アル中への転落→どん底からの復活」までがひとまとまりのストーリーラインの中での規定路線であったために、どん底描写はあくまでもその後の展開までの一つの流れにすぎなかったのが、デニス・オニール担当期になると、トニーのクズっぷりは長期の連載の中でただただ延々と描写されるだけなので、常軌を逸して突出したものになっているのであります(アイアンマンとしての活動は全てローディがやっているのも結構な長期間に渡るので、このころ、ウェストコースト・アヴェンジャーズ創設へ参画したり、『シークレット・ウォーズ』でバトルワールドへ赴いたりしているのはローディの方です)。
 デニス・オニールの場合、『グリーンランタン/グリーンアロー』ではアメリカの暗部を描写するという明確なテーマがあったわけですが、それを外部の視線から観察するのではなく、主人公の側をそういう状況に追い込んでおいて、そこから逃れ出る出口などもいっさい示さず、ストーリー展開の一つの局面としてのみ利用しているようなことも全くなく、ただ底辺の人間の底辺の描写それ自体が目的化して延々と続くので、えらいことになっているのでした。
 ……で、最終的な展開としては、アーウィン弟が爆死したあとになって、ブチギレた姉ちゃんに「アンタが予備のアーマーまで持ってるくせにいや自分はアイアンマンじゃないとかうだうだ言って役割果たさなかったからウチの弟が死ぬ羽目になったんじゃろがあァァァァ!!!」と至極もっともな非難を浴びせかけられたことによって、ようやく目が覚めたトニーは真人間に復帰します。
 それがちょうど200号で、この号が初出となるシルヴァーセンチュリオンアーマーを装着したトニーがステインの元に向かうわけですが……この号自体は有名なので、私も単発で読んだことがあったのですが、ここまでの流れを押さえた上で全部読むと全く印象が違うなあ、と。……なにしろ、連載当時にリアルタイムで読んでた読者にしてみれば、三年近くもの長期間に渡ってず~っと最底辺のクズ野郎としての描写が続いていたトニーがようやく復活して、正式にアイアンマンとして大バトルを展開することになるので、そのカタルシスが凄いことになっているのでした。ステインの最期の描写がなぜああいうものになっていたのかということも、そこまでの展開で丁寧に伏線が敷かれていたということがわかりましたし。
 ……まあ、冷静に考えてみると、爆弾事件によって一線を越えたとはいえ、基本的には合法的な活動の範疇でトニーを追いつめていたステインとの最終決着戦が、一般企業に殴り込んでの、アーマーを装着した企業家同士のシバき合いでいいのだろうか……という疑念が一瞬頭の中をよぎるものの、ま、とりあえずすげー面白いからいっか、ということになるのでありました。
 それにしても、このあたりの展開ってつい最近に至るまで全然単行本にまとまってなかったんですが……これはやっぱり、トニーのクズ描写が酷すぎるからあんまり再版はしたくないってことなんですかねえ。
 ついこの間、ようやく『アイアンマン:デュエル・オヴ・アイアン』というTPBに178号から195号まで(およびアニュアルの6号と7号)の展開が収録されたんですが……これの場合、トニーのクズ描写はたっぷり描かれつつも最後の最後に決起するところまでは入っていないので、これ読んでもモヤモヤしてしまうのでは、などと思ってしまうのでもありました。





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コメント

200号だけなら『IRONMAN I AM IRONMAN』という2010年の映画アイアンマン2の公開時に発売された本に翻訳で収録されていますね。
200号だけな上に、1冊のうち3分の2が映画1作目のコミカライズのですが…
記事を読んで、それまでのくだりが6年越しでよくわかりました(笑)
ありがとうございますm(_ _)m

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